とうきびは方言?どこで使われる|地域別の呼び名が面白い

日本人男性が呼び名の違いを確認

「とうきび」という言葉を聞いたとき、すぐにとうもろこしが浮かぶ人と、首をかしげる人がいます。同じ野菜を指す言葉が、地域によってここまで変わるのか、と驚く方も多いのではないでしょうか。

「とうきび」はとうもろこしを指す方言のひとつで、北海道ではとりわけ広く使われています。しかし、「とうきび」という呼び方は北海道固有というわけではなく、歴史をたどると全国的に使われていた時代があったことも分かっています。

この記事では、「とうきび」がどこの方言なのか、語源はどこにあるのか、そしてほかの地域ではとうもろこしを何と呼ぶのかを、地域ごとに整理しています。呼び方の違いを知ると、日本語の方言の広がりが少し身近に感じられるはずです。

「とうきび」はどこの方言?まずここを整理する

「とうきび」がどこの言葉なのかを押さえるには、現在どの地域で使われているかを確認するのが早道です。北海道のイメージが強い言葉ですが、分布は思いのほか広く、全国各地に点在しています。

現在もっとも使われているのは北海道

「とうきび」という呼び方が今日もっとも広く使われているのは北海道です。道内のほとんどの地域で、とうもろこしのことを「とうきび」と呼ぶ習慣が根づいています。

北海道を訪れると、道の駅の直売所で「ゆできびあります」と書かれた立て札を目にすることがあります。「きび」だけで通じる場面も多く、「ゆできび」はそのまま「茹でたとうもろこし」を指します。

札幌の大通公園にある「とうきびワゴン」は、焼いたとうもろこしを醤油だれで味付けして販売する屋台として知られており、「とうきび」という呼び方が北海道の日常に定着していることを示す例のひとつです。

北海道以外でも使われている地域がある

「とうきび」が使われているのは北海道だけではありません。山形県北部、石川県、福井県、香川県、愛媛県、山口県西部、九州各地、群馬県、埼玉県、愛知県奥三河地方など、全国各地に分布しています。

同じ北海道の中でも、函館を中心とする道南地方では「とうきみ」と呼ぶ地域があります。「とうきび」と「とうきみ」は音が近く、それぞれ「きび」「きみ」と省略されることもあります。

このように、「とうきび」という呼び方は北海道のみのローカル語ではなく、複数の地域にまたがって使われてきた言葉です。

昭和前半期までは全国的に使われていた

Wikipediaのトウモロコシの項目など複数の資料には、「とうきび」は昭和前半期まで全国で一般的に使われていた呼び方だと記されています。その後、「とうもろこし」が標準語として広まるにつれて、各地で「とうきび」は方言に位置づけられるようになっていきました。

つまり、かつては「とうきび」のほうが全国共通の言い方に近い時代があったわけです。現在は特定の地域に残る呼び方となっていますが、それ自体が日本語の変化を示す記録でもあります。

【この章のポイント】
・「とうきび」は北海道でとくに広く使われる方言
・山形・石川・福井・香川・愛媛・九州など各地にも分布
・昭和前半期まで全国で使われていた歴史がある
・同じ北海道内でも道南では「とうきみ」と呼ぶ地域がある
  • 「とうきび」は現在おもに北海道で広く使われているが、全国各地に分布する方言
  • 道南では「とうきみ」、その省略形「きみ」や「きび」も日常的に使われる
  • 昭和前半期まで「とうきび」は全国的に一般的な呼び方だった

とうきびの語源と意味を知る

「とうきび」という言葉がなぜそう呼ばれるようになったのかは、とうもろこしそのものの歴史と深く結びついています。名前の成り立ちを知ると、方言としての背景も見えてきます。

「唐黍」という漢字が語源

「とうきび」は漢字で「唐黍」と表記します。「唐(とう)」は中国の王朝名に由来し、古くから「外国から伝わったもの」を指す言葉として使われてきました。「黍(きび)」はイネ科の植物で、見た目が似ていることから名前に組み込まれたとされています。

語源由来辞典によると、とうもろこしは16世紀にポルトガル人によって日本に伝えられました。それ以前から日本に伝わっていた「モロコシ(蜀黍)」という植物によく似ていたため、「唐から来たモロコシ(黍)」として「とうきび」「とうもろこし」と呼ばれるようになりました。

「唐黍(とうきび)」と「唐もろこし(とうもろこし)」は、いずれも「外来の穀物」という意味を持つ同じ植物の別名です。語源は同じ発想から生まれた、言わば兄弟のような呼び名です。

「玉蜀黍」という漢字の成り立ち

とうもろこしを漢字で書くと「玉蜀黍」となります。「唐蜀黍」や「唐唐黍」では「唐」が重複してしまうため、「唐」の代わりに「玉」が使われるようになったとされています。「玉」が選ばれた背景には、とうもろこしの別名に「玉黍(たまきび)」があったこと、また実が黄金色に美しく並ぶ様子が由来とも言われています。

「玉蜀黍」という漢字は見た目が難解ですが、成り立ちを知ると語源との連続性が見えてきます。

「なんばんきび」という呼び方も語源は同じ

日本人女性がとうきびの地域差を見る

西日本でとうもろこしを「なんばんきび」や「なんば」と呼ぶのも、語源の発想は「とうきび」と同じです。「南蛮(なんばん)」もまた「外国から来たもの」を指す言葉で、当時の日本ではポルトガルやスペインから来たものを「南蛮渡来」と呼ぶ習慣がありました。

Wikipediaのトウモロコシの項目には、「とうきび」が「唐黍」に由来し、「なんば」は「南蛮黍(なんばんきび)」の略称であると記されています。どちらも「舶来のキビに似た穀物」という同じ意味を、別の言葉で表したものです。

【語源まとめ】
・とうきび=唐(外来)+黍(キビ)→外来のキビに似た穀物
・とうもろこし=唐(外来)+もろこし(蜀黍)→外来のモロコシ
・なんばんきび=南蛮(外来)+黍(キビ)→南蛮渡来のキビ
いずれも「外国からやってきた穀物」という同じ発想から生まれた呼び名です。
  • 「とうきび」は漢字で「唐黍」と書き、「外来のキビに似た穀物」が語源
  • 「とうもろこし」も「とうきび」も、語源は同じ発想から生まれた兄弟のような名前
  • 「なんばんきび(なんば)」も同様に「外来」を意味する別の表現

全国の呼び名マップ:地域ごとに何と呼ぶ?

とうもろこしの方言は、地域ごとに大きく異なります。方言大辞典に267種の呼び方が収録されているほど多彩で、地域の歴史や文化の違いが名前の違いに反映されています。大まかな地域ごとに整理しておくと、全体像をつかみやすくなります。

北海道・東北の呼び方

北海道では「とうきび」が広く使われますが、道南の函館周辺では「とうきみ」という言い方が根づいています。どちらも略して「きび」「きみ」と呼ぶことがあり、「ゆできび」「ゆできみ」という表現も日常的に使われます。

東北地方では青森県・岩手県を中心に「きみ」が一般的で、宮城県・福島県・栃木県・茨城県では「とうみぎ」が使われます。「とうみぎ」は「とうむぎ(唐麦)」が転じた呼び方とされており、同じ宮城・福島エリアでも「とうみぎ」「とうむぎ」の両方が混在しています。秋田県では「とっきみ」という形に変化した呼び方が知られています。

関東・中部・北陸の呼び方

関東地方では「とうもろこし」が標準的な呼び方として定着しています。一方、長野県では「もろこし」「きび」が一部で残っており、新潟県では「とうまめ」「まめきび」などの呼び方も記録されています。石川県・福井県では「とうきび」が使われており、北陸は東日本的な呼び方が残る地域のひとつです。愛知県では地域によって「とうきび」(奥三河)、「なんばと」(三河)、「こうらいきび」(尾張)など、県内でも呼び方が分かれています。

近畿・中国・四国・九州の呼び方

近畿地方では「なんば」「なんばん」が広く使われています。語源由来辞典でも、「南蛮から伝わった黍に似た穀物」としてこの呼び方の成り立ちが示されています。三重県伊賀や岡山県・徳島県など近畿周辺でも「なんば」が使われる地域があります。

岐阜県や滋賀県の一部では「こうらい」「こうらいきび」という呼び方が残っています。これは「高麗(こうらい)」に由来し、中国や朝鮮半島から来た植物という認識が名前に残ったものです。四国では香川県・愛媛県で「とうきび」が使われており、九州でも「とうきび」が広く分布しています。鹿児島県では「たかきび」という呼び方も記録されています。

地域主な呼び方
北海道(道央・道北など)とうきび・きび
北海道(道南)とうきみ・きみ
青森・岩手・秋田きみ・とっきみ
宮城・福島・栃木・茨城とうみぎ・とうむぎ
石川・福井とうきび
愛知(奥三河)とうきび
近畿・中国(一部)・徳島なんば・なんばん
岐阜・滋賀・三重(一部)こうらい・こうらいきび
香川・愛媛・九州各地とうきび
長野・山梨もろこし・きび
  • 「とうきび」は北海道・北陸・四国・九州に広く分布する
  • 東北では「きみ」「とうみぎ」が中心、近畿では「なんば」が定着
  • 岐阜・滋賀などでは「こうらい」という呼び方が残る

さとうきびとの違いと混同しやすい理由

「とうきび」と聞いて「さとうきび」を思い浮かべる人が一定数います。音の似た2つの言葉は、全く異なる植物を指しているにもかかわらず混同されやすい点で注意が必要です。違いを整理しておくと、誤解が減ります。

そもそも何が違うのか

「とうきび」はとうもろこし(学名:Zea mays)のことで、イネ科の一年草です。世界三大穀物のひとつとして米・小麦と並ぶ位置づけにあり、食用のほか飼料・工業原料としても広く使われています。日本では夏の野菜として親しまれ、茹でる・焼く・蒸すなどさまざまな調理法で食べられます。

一方、「さとうきび」はサトウキビ(学名:Saccharum officinarum)という全く別の植物です。同じイネ科ではありますが、砂糖の原料として栽培される点でとうもろこしとは用途が根本的に異なります。主に沖縄県・鹿児島県などの温暖な地域で生産されており、北海道などの寒冷地で育つとうもろこしとは生育環境も正反対です。

なぜ混同されるのか

「とうきび」と「さとうきび」は音の響きが似ており、どちらも「きび」という語を含んでいます。北海道を旅行中に「とうきび」と書かれた看板を見て、沖縄の名産品と勘違いするケースが実際に起きています。「唐黍(とうきび)」の「とう」と、「砂糖黍(さとうきび)」の「さとう」が耳で区別されにくい点も混乱を生む要因のひとつです。

「きび(黍)」という言葉自体がイネ科植物の通称として使われてきた歴史があり、とうもろこし・さとうきび・黍(きび)がいずれも「きび」を含む名称を持つことが、混乱を生みやすい背景にあります。

見た目・産地・用途で整理する

2つを区別するには、産地と用途を手がかりにすると分かりやすいでしょう。とうもろこし(とうきび)は北海道産が有名で、夏に旬を迎えるイエロー・ホワイトコーンが代表的な食材です。さとうきびは沖縄・鹿児島が産地で、砂糖や黒糖の原料として使われるものです。

【とうきびとさとうきびの違い】
とうきび(とうもろこし):北海道などで栽培、夏の食用野菜・穀物
さとうきび:沖縄・鹿児島などで栽培、砂糖・黒糖の原料植物
同じイネ科でも、植物の種類・産地・用途がまったく異なります。

Q. 北海道の「ゆできび」は何ですか?

A. 茹でたとうもろこしのことです。北海道では「とうきび」がとうもろこしの方言で、「ゆできび」はそのまま「茹でたとうもろこし」を指します。さとうきびとは全く別の食材です。

Q. 「なんばん」は北海道ではとうもろこしのことですか?

A. 北海道では「なんばん」は唐辛子を指します。「なんば」「なんばん」がとうもろこしを指すのは近畿地方や中国地方の一部など西日本の地域で、同じ言葉でも地域によって意味が異なります。

  • 「とうきび」はとうもろこしの方言で、さとうきびとは全く別の植物
  • 産地・用途・生育環境がまったく異なるため、混同には注意が必要
  • 「なんばん」は北海道では唐辛子、近畿地方ではとうもろこしを指す

まとめ

「とうきび」はとうもろこしを指す方言で、語源は「唐黍(とうきび)」、つまり「外来のキビに似た穀物」にあります。現在は北海道でとくに広く使われていますが、全国各地に分布しており、昭和前半期まで全国的に使われていた歴史的な呼び名でもあります。

地域ごとの呼び方の違いを知るには、まず「とうきび」「なんば」「きみ」「とうみぎ」という主要な4系統を押さえるとよいでしょう。北海道・北陸・九州が「とうきび」系、近畿が「なんば」系、東北北部が「きみ」系、東北南部から北関東が「とうみぎ」系という大まかなまとまりがあります。

同じ野菜なのにこれほど呼び名が違う食材は珍しく、その違いの背景には日本各地の歴史や文化の積み重ねがあります。旅先や会話の中で「とうきび」「なんば」「きみ」といった言葉に出会ったとき、今回の整理がヒントになれば幸いです。

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