「ちょす」という言葉を初めて耳にしたとき、意味が全くわからなかった、という声はよく聞かれます。実際、2024年11月には青森県の宮下宗一郎知事がX(旧Twitter)に「ちょさないでください」と書かれた県庁内の貼り紙を投稿し、「県外の人には通じない」とコメントしたことで8万件を超えるいいねが集まり、話題になりました。
この記事では、「ちょす」がどんな意味を持つ方言なのか、どの地域で使われているのか、語源や活用のかたちはどうなっているのか、といった点を複数の資料をもとに整理します。方言として覚えておくと、津軽弁・東北の方言を耳にする機会があったときに、ぐっと理解しやすくなるはずです。
はじめて聞いた単語でも「あ、あの方言か」とすぐ結びつけられるよう、一つひとつ丁寧に確認していきましょう。
「ちょす」とはどんな意味の方言か
「ちょす」という語の意味を確認するにあたり、複数の方言資料・辞書サイト・一次情報ページを照合しました。語の意味の幅は資料によって多少異なるため、複数の用例をあわせて整理しています。
基本的な意味は「さわる・いじる」
「ちょす」の中心的な意味は「さわる(触る)」と「いじる」です。物理的に手を触れる行為を指す場面で最も多く使われます。標準語の「触る」とほぼ対応しており、「そこ、ちょすな」は「そこ、触るな」と同じ意味になります。
もう一つのコアな意味が「いじる」です。「さわる」よりも少し動作が加わるニュアンスで、スマートフォンやパソコンを操作したり、何かを弄ったりする場面でも使われます。「スマホちょしたりして待ってる」(スマートフォンをいじったりして待っている)という使い方が典型例です。
さらに広い意味では「かまう」や「からかう」も含みます。人に対して使う場合は、相手に干渉したり、冗談でからかったりする場面で使われることがあります。「あんまり嫁コばちょすなじゃ」(あんまり嫁さんをからかわないでよ)という例文が、この用法をよく表しています。
「さわる」「いじる」「かまう」「からかう」の4つを確認する
まとめると、「ちょす」には次の4つの意味が確認されています。
1. さわる(物に手を触れる)
2. いじる(操作・弄る)
3. かまう(干渉する)
4. からかう(冗談交じりに相手に仕掛ける)
この4つは「軽く手や意識を向ける」という共通した感覚でつながっています。力強く触れるというより、ちょっと触れてみたり、あれこれ手を出したりするような動作全般に使える点が特徴です。
否定形「ちょすな・ちょさないで」がもっとも有名
「ちょす」という語が全国的に注目される場面は、圧倒的に否定形です。「ちょすな」は命令形の否定で「触るな」にあたり、注意書きや親が子どもに声をかける場面などで特によく使われます。
「ちょさないで」は「触らないで」の丁寧なお願い表現です。2024年の青森県庁の貼り紙でも「ちょさないでください」というかたちで使われており、この表現が「方言だとは気づかなかった」という声も寄せられました。「ちょすな」よりもやわらかく、日常の注意書きに使われる表現といえます。
- 「ちょすな」:命令形の否定。「触るな」に相当する。
- 「ちょさないで」:「触らないで」のお願い表現。
- 「ちょしたらまねよ」:「触ったらダメだよ」の意味。「まね」はダメ・いけないを表す津軽弁。
「ちょす」はどこの方言か:地域分布を確認する
「ちょす」が青森県特有の語だと思っていたら、実は広い範囲で使われていることがわかりました。各地の方言資料や報道・SNS上の反応を複数照合したうえで、分布の実態を整理しています。
中心は青森県の津軽弁
「ちょす」がもっとも代表的に扱われるのは、青森県西部に広がる津軽地方の方言、津軽弁の語彙としてです。津軽弁は東北方言の中でも北奥羽方言に属し、青森市・弘前市・五所川原市などを中心とした地域で話されています。
津軽弁は共通語とかけ離れた独自の音韻・語彙が多く、日本語話者であっても津軽地方以外の人にはほとんど理解できないと言われるほど難解な方言です。「ちょす」はその中でも語形がシンプルで聞き取りやすく、津軽弁の語彙を紹介する際に頻繁に取り上げられる語の一つです。
東北全域と北海道にも広がる
「ちょす」の使用は津軽弁だけにとどまりません。複数の情報源によると、青森県の他の地域(南部弁・下北弁)をはじめ、宮城県(仙台弁)・岩手県・秋田県・山形県でも使われることが確認されています。また、北海道(特に道南地域)でも広く使われており、北海道方言として紹介されることもあります。さらに新潟県下越地方での使用も報告されています。
注目すべきことに、福島県での使用は複数のSNS上での報告でほとんど確認されていないという指摘もあり、東北6県+北海道・新潟に分布しながら福島では使われない傾向があるようです。ただしこの点は学術的に確定した情報ではないため、目安として参照してください。
青森県内では3つの方言すべてに共通する語
青森県内の方言は大きく津軽弁・南部弁・下北弁に分かれ、それぞれの語彙は大きく異なります。同じ青森県民同士でも互いの方言が理解しにくいほどです。しかし「ちょす」は津軽弁の代表的な語として扱われながらも、南部弁・下北弁でも使われる語であり、青森県内の方言を横断して共有されている語の一つといえます。
| 地域 | 「ちょす」の使用状況 |
|---|---|
| 青森県(津軽弁) | 代表的な語として広く使用 |
| 青森県(南部弁・下北弁) | 同じ意味で使用確認あり |
| 宮城県(仙台弁) | 「いじる」の意味で使用 |
| 岩手県 | 「触る・いじる」の意味で使用 |
| 北海道(特に道南) | 「触る・さわる・からかう」で広く使用 |
| 新潟県下越地方 | 「ちょすな」(触るな)の形で使用確認 |
- 「ちょす」は津軽弁の代表語として有名ですが、使用域は東北全域・北海道・新潟にまで広がります。
- 地域ごとに「いじる」「さわる」「からかう」のどの意味が前面に出るかは多少異なります。
- 北海道では開拓期の移住者を通じて東北の語が広まったとする見方があります。
「ちょす」の語源と成り立ち
語源については確定的な学術資料を直接確認することはできませんでしたが、複数の方言サイト・方言辞典での言及をもとに整理しています。断定しにくい部分については、その旨を明記します。
「嘲す(ちょうす)」が語源という説
「ちょす」の語源として複数の方言資料が挙げているのが「嘲す(ちょうす)」という古語です。「嘲す(ちょうす)」は「あざける」「馬鹿にする」「人をなぶる」といった意味を持つ古い日本語で、「ちょうす」→「ちょす」へと音が短縮・転訛したと考えられています。
茨城方言大辞典の記載によると、「ちょうす」は東北全域・新潟での使用が確認されており、現代の「ちょす」との音韻的なつながりを裏付ける資料の一つとして参照されています。この語源説は「ちょす」が「からかう」という意味も持つことと整合しており、意味の連続性という点でも説得力があります。
津軽弁に残る古語の転訛という背景
Wikipediaの津軽弁の記事でも言及されているように、津軽弁の語彙には共通語ではほとんど使われなくなった古語が転訛して残っているものがいくつか見られます。「てぎ」(面倒)が「大儀」の転訛であるように、「ちょす」も古語が地域方言の中で生き続けた語と捉えると、その位置づけが理解しやすくなります。
なお、語源に関する詳細な情報は現時点で一次的な辞書・学術資料での確認が限られています。より正確な情報は国立国語研究所(ninjal.ac.jp)や方言辞典の最新刊でご確認ください。
北海道に伝わった経路
北海道では明治以降の開拓期に全国各地から移住者が集まり、各地の方言が混ざり合いながら北海道方言が形成されたという背景があります。北海道、特に津軽海峡をはさんだ道南(松前郡など)は津軽弁との地理的・文化的なつながりが特に強く、Wikipediaの津軽弁の記事でも「津軽海峡の対岸である北海道の松前郡も津軽弁の影響が大きい」と記述されています。「ちょす」が北海道方言として根付いているのも、この歴史的な流れによるものと考えられます。
・「嘲す(ちょうす)」が転訛したという説が複数資料で言及されている
・「あざける・なぶる」→「さわる・からかう」へと意味が広がった可能性がある
・古語が方言として生き続けた例の一つとして位置づけられる
・確定的な学術情報は国立国語研究所等でご確認ください
- 語源として「嘲す(ちょうす)」という古語が挙げられることが多い。
- 津軽弁には古語の転訛が多く見られ、「ちょす」もその一例と見られている。
- 北海道へは開拓期の移住を通じて伝わったとする見方がある。
「ちょす」の活用形と使い方を確認する
「ちょす」は動詞として使われ、語形が変わる活用があります。会話の中でどのように形が変わるかを、実際の例文をもとに整理しました。方言Labや各方言サイトに掲載された用例をもとに照合しています。
基本的な活用のパターン
「ちょす」は五段活用動詞に準じた活用をします。標準語の「触る(さわる)」と対応させて考えるとイメージしやすいでしょう。
| 活用のかたち | 例 | 標準語訳 |
|---|---|---|
| 基本形 | ちょす | 触る・いじる |
| 否定形 | ちょさない/ちょさね | 触らない |
| 命令否定形 | ちょすな | 触るな |
| て形 | ちょして | 触って |
| 継続形(津軽弁) | ちょしてら/ちょしてる | 触っている |
| 受け身形 | ちょされる | 触られる・いじられる |
| 条件形 | ちょせば | 触れば |
津軽弁の継続相には「〜てら(でら)」を使う特徴があり、「ちょしてら」は「触っている」に相当します。若年層では「ちょしてる」と共通語に近い形で使う話者も増えています。
具体的な例文で確認する
方言Labおよび各方言資料に掲載された例文を参考に、典型的な使い方をまとめます。
「いま集中してらからちょさないでけ」は、「今集中しているから構わないでください」という意味です。「でけ」は津軽弁で「ください」にあたる表現で、お願いのニュアンスがあります。
「スマホちょしたりして待ってる」は、「スマートフォンをいじったりして待っている」の意味で、「いじる」の用法に当たります。「そごさ置いでらのちょせばまいねよ」は、「そこに置いてあるものを触ったらダメだよ」の意味で、「まいね(まね)」は「ダメ・いけない」を表す津軽弁です。
人に対して使う場面:「かまう」「からかう」の意味
「ちょす」は物だけでなく、人に対しても使われます。この場合は「かまう」「からかう」の意味になります。「あんまり嫁コばちょすなじゃ」(あんまり嫁さんをからかわないでよ)という例文が典型です。「ちょしてっからバチが当たった」(からかっているから罰が当たった)のように、度が過ぎた干渉に対して使うこともあります。
人に向けて使う「ちょす」は、物に触れるニュアンスより少しだけ感情が乗ります。冗談めかした注意として使われることが多く、強い非難というよりは「もう、やめてよ」というやわらかい感覚に近い表現です。ただし相手や状況によっては失礼に受け取られる可能性もあるため、使う場面は選んだほうがよいでしょう。
- 「ちょす」は物理的な接触(さわる・いじる)と対人的な干渉(かまう・からかう)の両方に使える。
- 否定形・命令形での使用が特に多い。
- 「ちょされる」(受け身形)で「触られる・いじられる」の意味になる。
「ちょす」と似た方言・関連語を整理する
「ちょす」と意味や用法が近い方言の語を調べると、同じ東北・北海道エリアの中に関連性の深い表現があることがわかりました。これらをあわせて確認しておくと、方言の語彙体系がより把握しやすくなります。
「こちょがす」「もちょこい」との関係
青森の方言一覧にも登場する「こちょがす」は「くすぐる」、「もちょこい」は「くすぐったい」を意味する語です。「ちょす」と同じ「触れる・刺激する」という感覚系の動詞ですが、「こちょがす」はくすぐるという特定の触れ方を指すため、「ちょす」よりも意味が限定的です。「ちょすな!もちょこちぇ!」(触るな!くすぐったい!)のように、会話の中でセットで使われることもあります。
「ちょっかいを出す」との語感の共通点
標準語の「ちょっかいを出す」(相手にいたずらをしたり干渉したりする)との意味的な近さを指摘する声も複数あります。一部の解説サイトでは「ちょっかいを出す」を縮めたものが語源という見方も紹介されていますが、これは俗説の域を出ておらず、「嘲す(ちょうす)」語源説とは異なる系統の説です。どちらが正確かは現時点では学術的に断定できません。
標準語の「触る・いじる」との使い分け
方言として使われる「ちょす」と、標準語の「触る」や「いじる」を比べると、「ちょす」には「軽くちょっと触れる」「悪戯っぽく手を出す」という語感があり、標準語よりもやわらかく砕けた印象を与えます。フォーマルな場・初対面の相手・ビジネスの場では標準語を使うほうが無難です。一方で、親しい家族・友人との会話や、地域の雰囲気を大切にしたい場面では「ちょす」の方が自然な語として機能します。
Q. 「ちょす」と「こちょがす」は同じ意味ですか?
A. 違います。「こちょがす」は「くすぐる」を指す限定的な語で、「ちょす」の「さわる・いじる」より意味が狭い表現です。
Q. 「ちょす」はフォーマルな場で使えますか?
A. 砕けた語なので、改まった場や初対面の相手には向きません。「さわらないでください」など標準語に言い換えるとよいでしょう。
- 「こちょがす」(くすぐる)・「もちょこい」(くすぐったい)は「ちょす」と同じ感覚系の動詞だが意味は異なる。
- 「ちょっかいを出す」と似た語感があるが、語源説としては別系統とされる。
- フォーマルな場では標準語への言い換えを意識するとよい。
まとめ
「ちょす」は「さわる・いじる・かまう・からかう」を意味する東北・北海道の方言で、青森県津軽弁を代表する語の一つです。語源は「嘲す(ちょうす)」という古語に由来するという説が複数資料で言及されています。
まず確認しておくとよいのは「否定形の使い方」です。「ちょすな」(触るな)・「ちょさないで」(触らないで)・「ちょしたらまいね」(触ったらダメ)の3つを押さえておくと、実際に耳にしたときも意味をつかみやすくなります。
青森や東北・北海道の方言に触れる機会があったとき、この記事が一つの手がかりになれば幸いです。方言は地域の言葉の歴史を映す鏡のようなもの、ぜひ興味を持ち続けてみてください。


