長崎弁には、語尾や助詞の使い方に独特のリズムがあります。「なんばしよっと?」「雨の降るけん傘もっていかんば」など、標準語とは構造がやや異なる表現が日常のあちこちに登場します。初めて耳にすると意味が取りにくいと感じる方も多いですが、基本のパターンをつかむと一気に聞き取りやすくなります。
この記事では、長崎弁の例文を語尾・日常会話フレーズ・場面別の言い回しという切り口で整理しています。よく使われる表現を例文とセットで確認することで、実際の会話の流れがイメージしやすくなるはずです。
長崎弁に初めて触れる方も、長崎出身の方と話す機会がある方も、例文を読みながらぜひ声に出して確認してみてください。
長崎弁の例文を理解するための基本語尾
長崎弁の例文を読むとき、語尾のパターンを知っているかどうかで理解度が大きく変わります。形容詞・助詞・終助詞の3つの変化を押さえておくと、初めて見るフレーズにも対応しやすくなります。
形容詞の「〜い」が「〜か」になる
長崎弁では形容詞の語尾「〜い」が「〜か」に変化します。NCC長崎文化放送の公式解説でも紹介されているように、「すごい」が「すごか」、「高い」がカ行の重なりで「たっか」になる変化が基本形です。
「夕陽のきれいかねえ」(夕陽がきれいだねえ)、「あん先生の字、汚かとさね」(あの先生の字、汚いんだよね)のように、日常のあらゆる感想表現でこの語尾が登場します。「よか」(よい・いい)もこのパターンで、「よかよ」(いいよ)という形で頻繁に使われます。
例外として形容動詞の「〜だ」も「〜か」に変化します。「きれいだ」が「きれいか」になるため、名詞語幹がそのまま「か」につながる形が自然です。
助詞「〜を」が「〜ば」になる
目的格の「〜を」は長崎弁では「〜ば」になります。「醤油ば取ってくれん?」(醤油を取ってくれない?)、「なんばしよっと?」(何をしているの?)が代表例です。
また「〜が」が「〜の」に置き換わる場合もあります。「今日は天気のよかねえ」(今日は天気がいいねえ)のように、主語を示す助詞が「の」になるのは長崎弁特有の語感です。この2つの助詞変化は例文を読む際の手がかりになります。
「ば」は省略されることもあり、「なんしよっと?」と言っても通じます。省略の自由度が高い点も長崎弁らしいゆるやかなリズムを生んでいます。
終助詞「〜の」が「〜と」になる
疑問や断定を示す終助詞「〜の」は「〜と」になります。「この席とっとっと?」(この席取っているの?)「うん、とっとっと」(うん、取っているの)が有名な例です。
「とっとっと」は「取っている」という状態を示す「とっとる」に終助詞「と」がついた形で、見た目は同じ音が並びますが意味は明確です。博多弁では「とっとーと?」と語尾が少し変わるため、聞き比べると長崎弁の平板なイントネーションの特徴がよくわかります。
1. 形容詞の「〜い」→「〜か」(よい→よか、高い→たっか)
2. 助詞「〜を」→「〜ば」(なんばしよっと?)
3. 終助詞「〜の」→「〜と」(とっとっと?)
- 形容詞は語尾「〜い」を「〜か」に替えるだけで長崎弁らしくなる
- 目的格「〜を」は「〜ば」に変化し、省略も可能
- 疑問・断定の「〜の」は「〜と」になる
- 「とっとっと」のように同じ音が続くのは終助詞の重なりによるもの
- イントネーションは全体的に平板で、博多弁と聞き比べると違いがわかる
日常会話でよく出てくる長崎弁の例文
日常会話の中では、接続表現・程度を示す副詞・動詞の変化が組み合わさって使われます。ここでは特に使用頻度が高い表現を例文とあわせて整理します。
「けん」「ばってん」で理由と逆接を表す
「〜けん」は「〜だから」という理由・原因を示す接続表現です。「雨の降るかもしれんけん、傘持っていかんばよ」(雨が降るかもしれないから、傘を持っていかなきゃだよ)のように、日常の判断や行動の理由を述べるときに多用されます。
一方、「ばってん」は「だけど・しかし」という逆接を示します。NCC長崎文化放送の解説でも取り上げられているように、長崎弁を代表する語のひとつです。「好きばい、ばってん今日は会えん」(好きだよ、でも今日は会えない)のように、気持ちの対比を表すときによく登場します。
現在、「ばってん」は若い世代ではあまり使われなくなっているとも言われていますが、年配の方や長崎出身者同士の会話ではまだ自然に使われます。理由と逆接の2つを覚えるだけで、長崎弁の文章の流れが読みやすくなります。
「〜しよる」と「〜しとる」の使い分け
「〜しよる」は動作の進行(〜している)を、「〜しとる」は動作の完了・結果(〜してしまっている)を示します。「あそこにコンビニのできよった」は「今まさに建設中」、「あそこにコンビニのできとった」は「知らないうちにできていた」という意味の違いです。
「宿題ばしよってね」は「宿題をして過ごしてね」という進行形の依頼、「宿題ばしとってね」は「宿題を終わらせておいてね」という完了の依頼になります。わずか1文字「よ」か「と」かの違いですが、伝わるニュアンスが変わるため注意が必要です。
似た表現に「〜しよらす」があります。佐世保弁では「〜している」の意味でこちらをよく使う傾向があり、「田中さんの心配しとらしたよ」(田中さんが心配していたよ)のように長崎市内の表現とは語形が異なります。
「いっちょん」「ばり」で程度を表す
「いっちょん」は「ぜんぜん(〜ない)」という意味で、必ず否定形と組み合わせて使います。「いっちょん寒くなかね」(全然寒くないね)、「あん先生、いっちょん好かんけんね」(あの先生、ちっとも好きじゃないんだよね)が典型的な使い方です。
「ぜんぜん」が現代語で肯定にも使われるようになったのと違い、「いっちょん」は否定形とセットで使うというルールが保たれています。「いっちょんよかよ」という形は長崎弁では誤用とされる点に注意が必要です。
「ばり」は「とても・めっちゃ」という強調の副詞です。「ばりきつか」(めっちゃきつい)、「バリ好きばい」(とっても好きだよ)のように使います。英語の「very」が語源という説もあります。
| 長崎弁 | 意味 | 例文 |
|---|---|---|
| いっちょん〜ない | ぜんぜん〜ない | いっちょん寒くなかね |
| ばり〜 | とても〜 | ばりきつか |
| 〜けん | 〜だから | 雨けん傘もっていかんば |
| ばってん | だけど | 好きばい、ばってん会えん |
- 「いっちょん」は否定形とセットで使う副詞で、単独では成立しない
- 「ばり」は程度を強調し「ばりよか」(とってもいい)のようにも使える
- 「けん」は理由、「ばってん」は逆接と覚えると文の流れが読みやすい
- 「ばってん」は若い世代では使用頻度が下がっているとも言われる
場面別・長崎弁の例文集
日常のさまざまな場面で使われる長崎弁の例文を、場面ごとに整理します。友人との会話・家庭の中での表現・物の扱いに関する動詞など、場面を想定して確認するとより定着しやすくなります。
友人・知人との日常会話
「なんばしよっと?」(何をしているの?)は最もよく使われる挨拶的フレーズのひとつです。「今昼寝しとっと」(今昼寝してる)のように答えるのが自然な流れです。敬語なら「なんばしよっとですか?」になります。
確認・同意を求めるときは「〜やろ?」を語尾につけます。「今日お休みやろ?」(今日お休みだよね?)がその典型です。ただし敬語の場面では使いません。また、遠慮するときは「よかごたる」(いいです・やめておきます)が便利で、「今日は飲み会、よかごたる」(今日は飲み会はいいや)のように単体でも使えます。
「こがん・そがん・あがん・どがん」はいわゆるこそあど言葉です。「そがんこまんか車でどがんして持って帰るとや?」(そんな小さな車でどうやって持って帰るつもりなの?)のように、状況を描写する際にセットで使われます。
家の中でよく出てくる表現
「なおす」は「かたづける・しまう」という意味で、「こんカメラなおしとってくれん?」(このカメラ片づけておいてくれない?)と使います。標準語の「修理する」という意味とは全く異なるため、初めて聞く人が戸惑いやすい表現の代表格です。
「からう」は「背負う」という意味で、「ランドセルからってばあちゃんに見せてみらんね」(ランドセルを背負っておばあちゃんに見せてみてよ)のように使います。また「ねまる」は「腐る」の意味で、「冷蔵庫に入れとかんば弁当のねまるぞ」(冷蔵庫に入れておかなきゃ弁当が腐るよ)と夏場に使われることが多い言葉です。
「おっちゃける」(落ちる)と「おっちゃかす」(落とす)も家庭内でよく登場します。「あのコップ、おっちゃかして割れたとさ」(あのコップ、落としてしまって割れたんだよ)のように、不注意によるアクシデントを話すときに使われます。
注意が必要な長崎弁の例文
「はぶてる」は「ふてくされる・すねる」という意味です。「そんくらいではぶてるな」(そのくらいのことでふてくされるな)のように使われますが、あまりよい意味合いではないため、相手によっては失礼に聞こえる場合があります。
「わい」は長崎弁では「お前」という二人称ですが、関西弁では「自分」という一人称になります。長崎弁と関西弁が混在する場では意味が逆転するため注意が必要です。同様に「やぜか」(うざい・めんどくさい・むかつく)は感情を表すネガティブな言葉であるため、人に向けて使う際には場面と相手を選ぶ必要があります。
・「なおしとって」=「かたづけておいて」(修理ではない)
・「わい」=「お前」(関西弁の「自分」とは逆)
・「いっちょんよかよ」は長崎弁の誤用(「いっちょん」は否定形とのみ使う)
- 「なおす」は片づける・しまうの意味で、修理とは異なる
- 「わい」は二人称(お前)で、関西弁の用法と混同しないように注意
- 「はぶてる」「やぜか」は感情的な色合いが強く、使う場面を選ぶ
- 「いっちょん」は否定形とセットで使うルールがある
- 長崎出身でない相手への使用は、意味を補足しながら使うと親切
告白・気持ちを伝える長崎弁の例文
長崎弁は感情を伝える表現にも独特の語感があります。告白や気持ちを伝えるフレーズは、語尾のやわらかさが直接的な意味をほどよくやわらげる効果を持っています。
好意を伝えるときの言い回し
長崎弁での告白はシンプルに「好きばい」と言います。「ばい」は「だよ」に相当する語尾です。もっと強く伝えたいときは強調の「ばり」をつけて「バリ好きばい」(とっても好きだよ)となります。
「好きやけん、付き合ってくれん?」(好きだから、付き合ってくれない?)のように「けん」を使って理由を添えると、気持ちに根拠がある自然な告白フレーズになります。「くれん?」は「くれない?」という依頼・誘いの表現で、語尾を上げて言うのがポイントです。
なお「いっちょんすかん」は「ぜんぜん嫌い」という意味であるため、「好き」と「すかん」は混同しないよう注意が必要です。「すかん」は「嫌い・好まない」の意味で使われます。
気持ちを整理する場面の例文
「はぶてとらんし!もうちょっと一緒おりたかだけたい」(すねてないよ!もうちょっと一緒にいたいだけだよ)のように、否定と気持ちを続けて伝える場面でも長崎弁は自然に使われます。「おりたか」は「いたい」、「たい」は「だよ」に相当する語尾です。
「今日はもう帰りたくなか」(今日はもう帰りたくない)の「〜たくなか」は、「〜たくない」という気持ちの否定表現です。「なか」は形容詞の否定形で、「寒くなか」(寒くない)、「仕方なか」(仕方ない)のようにさまざまな文脈で現れます。
「手ば繋いでもよか?」(手を繋いでもいい?)は「よか」(いい)+疑問の語調がシンプルに組み合わさった表現です。「よか」は「大丈夫」「いい」「構わない」など幅広い肯定のニュアンスで使えます。
断る・遠慮するときの言い回し
「よかごたる」(いいです・けっこうです)は遠慮するときに使われます。「今日は飲み会、よかごたる」のように単体で使えるため、はっきり断らずともニュアンスが伝わる便利な表現です。「ごたる」は「〜のようだ・〜みたいだ」を意味し、語調をやわらげる効果があります。
「だんじゃなか」は「そんなことしている場合じゃない」という意味で、「今だんじゃなかとさ」(今それどころじゃないんだよ)のように、急いでいるときや手が離せないときに使われます。動詞と繋がず単体でも使える点がユニークです。
・好きばい → 好きだよ
・バリ好きばい → とっても好きだよ
・手ば繋いでもよか? → 手を繋いでもいい?
・今日はもう帰りたくなか → 今日はもう帰りたくない
・よかごたる → いいです(遠慮)
- 「好きばい」はシンプルな告白表現で、「ばり」を足すと強調になる
- 「くれん?」は語尾を上げると依頼・誘いになる
- 「よかごたる」は遠慮や断りをやんわり伝えるのに使える
- 「だんじゃなか」は「今は無理」という状況を端的に伝えられる
- 「いっちょんすかん」は「ぜんぜん嫌い」の意味なので混同しないよう注意
長崎弁と佐世保弁の例文の違い
同じ長崎県内でも、長崎市を中心とする長崎弁と北部・佐世保市を中心とする佐世保弁は、語形や語尾の使い方に違いがあります。例文で比較すると差がわかりやすくなります。
「〜している」の表現の違い
長崎弁では「〜している」を「〜しとる」と表現しますが、佐世保弁では「〜しとらす」になります。「昨日友達が家に来た」は長崎弁で「昨日友達の家に来とった」、佐世保弁で「昨日友達の来らした」と形が変わります。
「田中さんが心配していたよ」は長崎弁が「田中さんの心配しとったよ」、佐世保弁が「田中さんの心配しとらしたよ」になります。佐世保弁には「〜らす・〜らした」という丁寧さを含んだ形が多い点が特徴的です。
また否定表現も異なります。「まだ勉強していない」は長崎弁が「まだ勉強しとらん」、佐世保弁が「まだ勉強しよらっさん」と大きく語形が変わります。佐世保弁の「〜っさん」は上品な否定形として知られています。
語尾「〜ちゃん」の使い方
佐世保弁では語尾に「〜ちゃん」を使うことが多い点も長崎弁との違いです。「昨日海に行ったっさね」(長崎弁)と「昨日海に行ったっちゃん」(佐世保弁)を比べると、語感のやわらかさに差があります。
「〜ちゃん」は親しみやすい丸みのある響きをもつ語尾で、佐世保弁が「かわいい方言」として紹介されることが多い理由のひとつです。長崎弁の「〜さね」(〜なんだよね)との音の違いを意識して読み比べると、県内の方言の多様さが実感できます。
地域差がある表現に触れるときの注意点
同じ長崎県内でも、五島列島や対馬、壱岐などの離島部は本土部分とは大きく異なる語彙や音韻を持ちます。ウェブロ(weblio)の解説でも、長崎弁は地域ごとに異なる方言が内包されていると整理されています。
「長崎弁」という言葉が示す範囲は広く、記事や動画で紹介される表現が必ずしもすべての地域に当てはまるわけではありません。一次情報として詳しく確認したい場合は、国立国語研究所の日本語諸方言コーパス(COJADS)で地域別の用例を参照するとよいでしょう。
| 表現 | 長崎弁 | 佐世保弁 |
|---|---|---|
| 〜している | 〜しとる | 〜しとらす |
| 〜していた | 〜しとった | 〜しとらした |
| 〜していない | 〜しとらん | 〜しよらっさん |
| 語尾の特徴 | 〜さね・〜と | 〜ちゃん・〜っさん |
- 「〜しとる」(長崎)と「〜しとらす」(佐世保)は「〜している」の表現の違い
- 佐世保弁は「〜らした」「〜っさん」など丁寧さのある語形が多い
- 語尾「〜ちゃん」は佐世保弁に多く、長崎弁の「〜さね」とは音感が異なる
- 離島(五島・対馬・壱岐等)ではさらに大きく異なる語彙が使われる
- 詳細な地域別用例はCOJADSで確認できる
まとめ
長崎弁の例文は、語尾の変化パターンをひとつ覚えるだけで読みやすさが格段に変わります。「〜か」「〜ば」「〜と」「〜けん」という基本のルールが多くの文章の土台になっているからです。
まず「なんばしよっと?」「雨けん傘もっていかんば」「よかごたる」の3つの例文を実際に声に出して確認してみてください。音のリズムをつかむと、初めて見るフレーズにも応用しやすくなります。
長崎弁の細かい地域差や音の揺れが気になったときは、国立国語研究所のCOJADSや文化庁の国語施策ページも参考にしてみてください。この記事が長崎弁を自然に読み取る手がかりになれば幸いです。
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